S.H.I.P.とは

艦船由来のアイデンティティを持つ高濃度粒素構成体の総称。正式名称は類人擬態性ファージ(Similary-Human Imitated Phage)で、S.H.I.P.は頭文字を取った呼称。略称も同じく「船(ship)」。
2040年代前後までは本来の船に対する同音異語が問題視されてたが、人類の地上撤退によって造船技術が衰退し、新たな船舶の製造がなされなくなったため、現在「船」という単語はS.H.I.P.のみを指す。


タンパク質の代わりに粒素を外殻とする【ミーム・ファージ】で構成されており、生物でもウイルスでもない未知の存在。
全てのS.H.I.P.が「自分は特定の艦船である」という記憶因子由来のアイデンティティを有しているが、調査の結果「考証されたり発見され、記録保存された既知の出来事」のみが記憶として留まっているにすぎない。加えて、記憶・個体ごとの性格や嗜好・言動にそれらの記憶は一切関係がない。現存する艦船由来のS.H.I.P.に関しては、「初めて来た」「何らかの愛着はあるが、自分ではない」「展示内容は知っているが、他人事に思える」と答える個体が殆どで、何故S.H.I.P.が艦船のアイデンティティを持つのか、何故実艦船に対しての自己同一視が芽生えないのかは不明。
運用されていた艦船は人型、計画艦・建造中止艦は空想上の生物に似た姿を形成し、虹彩は外見に関わらず赤色系統で統一される。設計上の姉妹艦関係にあっても外見に共通項がない場合もある。
稀にヘテロクロミアを起こし、緑・紫の虹彩を持つ個体も存在。粒崩壊症などで眼球付近の組織構成異常を起こすと青・白に変色する。
身長と体重はベース艦船全長×1/100(cm)、国際総トン数・基準排水量×1/100000(kg)で、四肢欠損や増殖があっても変動しない。
細菌やウイルスの影響を受けづらく、体内の粒素濃度の低下や身体構成が崩壊する以外での傷病は発生しない。ある程度の損傷は修復可能だが、一度完全消滅すると二度と復活しないとされているものの、近年は消滅個体が【虚船】として循環しているのではないのかとの見解もある。
生命活動としての食事・睡眠・排泄を必要とせず、分泌物の成分は海水に近い。
種全体として雌雄の役割意識がなく「なんとなく人間に合わせて男女を設定しているだけ」という見解が一般的。身体性と自認性が異なる個体や、無性・両性も多く見受けられる。他生物との生殖行為は可能だが精巣・卵巣を持たないため増えることはない。【暗黒時代】以前に報告されていた「船との性交渉後に無精子症や黄体機能不全を起こす」件については、純人類の粒素耐性の低さと不適切な避妊により疾患が発生しただけである。


感情の起伏がなだらかで、表情筋の動きが乏しい傾向がある。精神の円熟というよりは、種として「コミュニケーションは必要最低限で、迅速かつ的確に内容が伝わる方がよい」という価値観を有しており、口数も少ない。
そのため外見年齢に問わず知能指数は高いが、人類社会の常識規範が欠落している個体が多い。
特に反社会的思想や行動を好む個体は捕獲され、一時扶養センターで思想や行動の矯正を施されていたことを当時の関係者が証言している。
【艦船存在権利保護条約】が締結された後も、戸籍を持たないため路上生活をする個体や、人権を持たないためあらゆる法律に反する労働や犯罪に活用されていたことは船の間では広く知られている。
しかし「船」が人の生活に寄り添う存在であるからか、人間に対して憎悪を抱く声は少なく、7000年代に行われた意識調査でも7割以上の船が「人間に対して特に悪感情を持たない」と回答している。
何より、そうではない船は既に反人類組織として行動を起こしている。


8000年代現在、多くの船が組織中核として活動を行っている。
【AIS】に登録された総数は嵌合種と亜人を合わせた数よりも少ないが、数少ない「以前の」知識・技術を活用し、人類なき地球で文化や社会の発展に貢献している。また、組織に属せずパートタイム労働として傭兵・運送業をこなす個体も存在する。