暗黒時代以前

純人類S.H.I.P.に初めて遭遇したのは2013年と公表されているが、あくまでも「人以外の知的存在」として認知された時期にすぎない。
「船」という単語がS.H.I.P.の略称になる以前にも、2002年頃から『赤目のホームレス村』『リアル子泣き爺』『海岸線の巨人』などのオカルト・ネットロアとして徐々に存在が噂されており、本人への聞き取り調査によれば第二次世界大戦以後には既に人間社会へ溶け込んでいた船も存在する。
しかし人間に類似もしくは人間からかけ離れた姿を持つ船たちは、既存の人類社会規範と異なる思想や行動理念などを理由に迫害を受けやすく、【SPiCA】設立が大々的に報道されるまでは「受け入れざるを得ない難民」などと呼ばれ鼻つまみ者であったことも事実である。
全ての船が酷い仕打ちを受けたわけではないが、表沙汰にならなかった傷害事件や卑劣な行いの数々が被害者本人たちの口から語られることは滅多にない。


2014年~2024年頃まで行われた【再現戦争】や【クロスロード・デルタ】により、“船”を称する者たちが「船」ではなく「船とは言うが、船ではない全く別の何か」であると判明して以来、人類はこの未知の存在たちに困り果てていたことがわかる。
保存されていたり、船籍のある現役船を名乗る個体はまだしも、旧軍の艦であるとか、会社が倒産しているとか、何がしかの要因を持つ「厄介な」船たちが一般社会に歓迎されることは少なく、逆に法の適応外であることに目を付けた反社会組織は我先にと欲しがった記録は多く発見されている。
治安悪化を防ぐためにS.H.I.P.保護法整備の動きはあったが、「人間の福祉を後回しにするのか」という声も多く、各国で難航していたとされている。最終的に2041年には【艦船存在権利保護条約】が締結されたが、あまり効力はなかったと記憶する船は多い。
勿論社会の中で良い関係を築けた船もおり、特に保存船や調査船、商船などからは心温まる話が多く出てくるのだが、悪い記憶や記録の方が記述として優先されやすいのは、知識と記憶を持つ存在である故に仕方がないことである。余談だが筆者も巡洋艦故に苦労した。戦闘艦としての敬意は払われても賃金が払われるとは限らないのだ。


スピカはよかったよなあ。屋根のあるところに入れたし。
屋根は別にまあ、なくてもいいんだけど。海にいたら屋根ないのが普通だし。
雨の日に濡れたままスーパーに入るとものすごく嫌がられて追い出されてさ。
雨の日は傘っていうのがないと外に出ない方がいいって知れたのはスピカのおかげだと思う。
最後はあんなことなっちゃったけど、いいところだった。

──過去にSPiCA所属だった船の話